Vol.6

円覚寺の髷額

船乗りの信仰あつめた円覚寺
津軽の北欧、行合岬
北金ケ沢のビッグイエロー
ロマンあふれる黄金の町

日本海に面した青森県西津軽郡の深浦町は、古来、海運の要衝として、江戸時代は北前船の往来も盛んに行われました。海賊が財宝を隠したと伝えられる「ガンガラ穴」など、海にまつわる歴史や伝承も多く残ります。

かつて、日本海を往来した海賊が残したお宝がこの町のどこかに眠っている、という財宝伝説。海賊の名は黄金崎(こがねざき)善衛門といい、沖合を通る船の水先案内人をしていたのが善衛門とその仲間たちとされています。ちなみに日本海を眺めながら露天風呂につかれる有名な「不老ふ死温泉」があるのも黄金崎という岬です。

肝心のお宝は、戦国~江戸時代、沖合を航行する商船を襲い、奪った金品とも、また、商売で財を成した富とも言われています。このガンガラ穴、森山海岸の絶壁にぽっかりあいた海蝕洞で、奥行きは約50m、コバルトブルーした水面はイタリア・カプリ島の「青の洞窟」さながらの神秘的な雰囲気。日本海に沈む夕陽を眺めるにも絶好のスポットです。

この町にある円覚寺は、1200年の歴史を誇る古いお寺で、航海の安全を願う北前船の商人や船乗りたちの信仰を集めました。北海道へ向かう北陸や能登の船は、深浦に入港すると、まず円覚寺に参拝してから、自宅へ無事を知らせる電報を打ったと言われています。

このお寺にある寺宝館には、70枚にも及ぶ船絵馬や28点の「髷額(まげがく)」が奉納されていて、珍しいのは、本物の髷が残る髷額。かつて、北前船の船乗りたちは、嵐に遭遇すると生還を願って「ちょんまげ」を切り落とし、ザンバラ頭になって一心不乱に神仏のご加護を祈りました。その後、無事に生還したお礼参りに船乗りたちが奉納したのが「髷額」です。当時の船乗りたちの本物の髷なので、小さな髷が多い、というあたりにリアリティが感じられます。

ここ深浦町の北寄りに、日本海に細長く突き出た岬、「行合(ゆきあい)崎」があります。関西地方から特産の食用品、雑貨などを北海道・松前や江差方面に運ぶ船と、北海道から特産品やニシン粕、昆布などを満載して行く船が行き交わるため、「行き逢う崎」と呼ばれたことが由来とされています。

現在は、町の指定名勝となっており、日本海の絶景が楽しめる風光明媚な土地。6月頃から、ニッコウキスゲの大群落が濃いイエローの花を咲かせ、その景色は北欧のように美しい穴場スポットでもあります。

また、深浦で訪れたいパワースポットが「北金ケ沢の大イチョウ」、通称「ビッグイエロー」。樹齢1000年以上、鎌倉時代からの老木で、幹の太さが22mと日本一大きく、幹から垂れ下がっている乳房に似た形の気根に触れると、母乳の出が良くなると言い伝えられていることから、「垂乳根のイチョウ」とも呼ばれています。

燃えるような一面の黄金色に色づく毎年11月になると、夜はライトアップイベントも開催されます。昼間とは異なる、まるで月光に包まれたかのように光り輝くビッグイエローからは、神々しいほどのパワーをもらえるはずです。

財宝伝説に黄色のニッコウキスゲ、ビッグイエローと、深浦は「黄金」が宿る町なのです。

【円覚寺】
円覚寺寺宝館に奉納された70枚の船絵馬や「髷額」は28点にも及び、国内髄一の数を誇ります。「髷額」は、荒天のため遭難の危機に瀕した船乗りたちがちょんまげを切り落とし、ざんばら頭になって一心不乱に祈り生還した後、そのお礼に奉納したもの。明治になって、北海道へ向かう北陸や能登の船は深浦に入港するとまず、円覚寺に参拝してから、自宅に無事を知らせる電報を打ちました。太宰治は小説「津軽」執筆のために深浦を訪れ、円覚寺の薬師堂に参拝し、深浦を「完成されている町」と表現しています。