Vol.9

資金調達をかなえてくれる航海の神様

荒波に挑む船乗りたちの安全と
資金調達をかなえてくれる海の神様

「板子一枚  下は地獄」と言われたほど、北前船の航海はまさに命がけ。船が沈んでしまえば一巻の終わりで、全財産を失う船主もいました。そんな危険と隣り合わせの商売ゆえ、航海の安全を神仏のご加護に求めたのです。全国の北前船の寄港地に格調高い神社や寺院が建ち並び、航海の無事を祈願した船絵馬などが多く奉納されているのはそのためです。

商人にとって資金調達力は最も重要な能力であるように、北前船でも、雇われ船頭から手船(自分の船)を所有する「船持ち船頭」に出世するには、資金集めが決め手でした。異例のスピード出世を果たした廻船業者の高田屋嘉兵衛は、手船を持つため、鰹漁で稼いだ自己資金を元手に、有力な同業者の援助を受けたり、豪商のもと日雇いをして資金の借り入れに成功するなど、金策にも「キレ者」らしさがうかがえます。

大阪に到着した北前船の船頭たちがこぞって参詣した住吉大社は、「航海の神様」として知られます。全国に2300社余りある住吉神社の総本社です。毎月、最初の辰の日に、商売の発達繁盛を祈願する「初辰(はったつ)まいり」は、「種貸社(たねかししゃ)」をはじめ4つの末社をお参りするもので、1か月に1回、1年で12回、4年で48回参拝すると見事、満願成就するといわれています。「初辰」と「発達」、「四十八辰」と「始終発達」をかけた語呂合わせがなんとも日本人好み。 この「初辰まいり」。まず最初に参拝する種貸社(たねかししゃ)で、お祓いを受けた硬貨「お種銭(たねせん)」を元手に資本充実の祈願をします。ちなみに種銭とは、商売を始める時の「元手」、資本金にあたるもの。続く「楠珺社(なんくんしゃ)」では、水玉模様の裃(かみしも)を着たキュートな招福猫の人形を授かります。偶数月には右手を、奇数月には左手を挙げた小猫を毎月集め、48体揃うと一回り大きな招福猫と交換してもらえる仕組み。ちなみに、右手挙げは「お金を招く」、左手挙げは「人を招く」ご利益があるそうです。商売の繁盛を神頼みするなら、飽きずに楽しく、末永く。北前船の船乗りなら間違いなく初辰まいりで、商売の発達と航海の安全を祈願したことでしょう。

住吉大社の種貸人形
種貸社は子宝安産にもご利益があり、子を授かった親が奉納した種貸人形が飾られています。福福しくほほ笑む母親が赤ちゃんを抱っこしている姿は見ているだけでほっこり。社頭では良縁成就の侍者人形、立身出世の千疋猿など様々な土人形が手に入ります。ちなみに招福猫は、子猫を48体集めると中猫と交換、さらに大猫へと、猫が大きくなるにつれ商売も大きくなる、そんな大阪商人らしい祈願スタイル。