Vol.19

こころやすまる、やすまるcafe

私は石川県白山市の観光課に勤務する20代女子。名前は姫子(と仮に名乗っておこう)。白山市は金沢市に隣接する大きな自治体だ。標高2,702mの白山(活火山)から流れ出る清流は、手取川となり日本海に注ぐ。その河口、白山市美川は、かつて北前船の時代に繁栄した港町。この美川地区は、手取川の流れによってできた手取川扇状地の最も海側に位置し、文字通り扇の形に広がる平野は、日本有数の美しい扇状地の景観として知られている。

「美川」と名付けられた通り、美川地区はおいしい湧水がいたる場所で湧き出ている。

「お台場の水」「大浜の水」「やすまる銘水」など、これらはまとめて「白山美川伏流水群」と呼ばれていて、平成の名水百選にも選ばれている。昔は冷蔵庫代わりとして、夏にはスイカやトマト、ジュースやビールを冷やしたり、地域住民には生活の一部として親しまれてきた。私には見慣れたこの水汲み場も、外から来た人には新鮮に映るらしい。適度にミネラルを含んだこの水は、滑らかな軟水でどこまでも澄んでいる。

 そろそろ最近の私の密かな、マインドフルネスの場所を紹介しましょう。安産日吉神社と境内にある「やすまるごはんcafe」。安産(やすまる)との名を冠する神社は日本でも非常に珍しく、神社近くを流れる安産川は、白山からの伏流水が流れ込む小さく美しい川。古くからの言い伝えによると、この川の水を飲むと安産・子宝に恵まれるとのこと。「やすまるごはんcafe」では、すべてのメニューにこのお水が使われている。私が週に2回は訪れるほどお気に入りのこのcafeでのパワーメシは「ペラカツオムデミ」。薄いトンカツの上にオムライスとデミグラスソースがとろりとかかったボリューミーな一品だ。

こんな美味しいパワーチャージをしながら、私は北前船がもたらした美川地区の文化を次世代に継承するため、日々戦略を練っている。特に今年は世界的な感染症拡大のため、「移動の制限」という極めて難しい課題が提示されている。だからこそ今の願いは唯一つ、「私のクリエイティビティが安産、子宝に恵まれますように」。全身全霊で神社詣りをして、「やすまるごはんcafe」で水の神様に願いをかける。

100年の時間をかけて湧き出た、初々しい水が自分の身体の隅々に染み渡っていく感覚。身体中の細胞が浄化されるような不思議な気持ち。―何かが生まれる―。その瞬間、そうだ、次の企画は、北前船が美川にもたらした文化を紹介するオンラインツアーはどうだろう? 移動がままならない今だからこそ、自宅にいながらにして美川の魅力を体感できるツアーを。「水の精」をご当地キャラにしてグッズを作るのはどう? 新しいアイデアが次々と生まれてくる。安産の神様、早速、クリエイティビティの子宝をありがとう、そう思った瞬間ハッと目が覚めた。どうやら、午後の日差しを浴びながら、うとうとうとまどろんでいたらしい。

こんな風にお店でリラックスできるのも、お店を切り盛りする女性スタッフのみなさんの給仕があればこそ。本当にこころ「やすまる」のです。さてと、そろそろ午後のお仕事に戻らなくちゃ。

やすまるごはんcafe
安産日吉神社の境内に位置する、心が休まるごはんカフェ。安産祈願お守りの委託授与も可能です。カフェからすぐ近くの珍しい子連れ狛犬は、触れることで安産のご利益があります。